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連載コラム~組織の潜在能力を引き出すために~【第8回】有能感

2019.3.1  組織開発

ある会社の支店長の方に伺った話です。数年前に一人の男性新卒社員が営業マンとして支店に配属されてきました。

配属直後に支店長が面談をすると、コミュニケーション能力は一定レベルあり、地頭の良さも感じられたので、十分にビジネスパーソンとして仕事をしていけるだろうと思われたそうです。

しかし、半年後の周囲からの評価は最悪で、心無い人達に蔭で“史上最低の新入社員”と言われる状況でした。

支店長からすれば不思議です。素養からみれば考えにくい評価でした。

 

「何か対策を講じてやらないと・・・」と考えていた頃だそうです。支店長が会員として所属している異業種交流会に提出しなければならない課題がありました。当時、多忙であったこともあり、その課題を手が空いている新入社員の彼に依頼し、完成後、交流会事務局に提出されました。

すると、出来栄えがかなり良かったようで、後日、交流会に出向くと参加者から称賛を受けられ面目が立ったそうです。

彼のお蔭ですから、当日、会社に戻り本人を支店長室に呼んで、称賛されたことを伝え、御礼を述べられました。

ただ、彼の様子はおかしいものでした。褒めてもらっているのに、説教されたかのように下を向いてうなだれています。支店長が、「どうしたんだ?」と声をかけても反応がありません。

気まずい沈黙が続いた後、彼が下を向いたままポツリとこう言ったそうです。

 

「褒められたのは7年ぶりです。。。」

 

支店長はそれを聞いて驚かれ、彼に詳しい話を聞いていかれました。

彼の家系は、医者が多く、父親・兄弟・親族、多くの人達が医者をされていたそうです。本人も医師になるべく大学は医学部を志望していました。ただ高いレベルの学校を親から指定されていたこともあり、二浪しましたが結局失敗して一般の学部に入学して、今に至っているとのことでした。

この過程で、当然本人は受験失敗で落ち込み自信を失くしています。かつ父親や兄弟からかなり非難され、親族からも悪く言われたそうです。自己否定の日々が続いたようでした。

 

心理学で『有能感』という言葉があります。シンプルに言えば、「自分は努力・実行すれば、できる・良くなるという自己肯定心」のことを指します。

この有能感の高い人は、障害・困難が生じても、自分を信じる気持ちが強いので、乗り越えていく努力を継続していきます。結果、成果が出てさらに有能感が高まるという善循環なされていきます。

逆に有能感の低い人は、ちょっとした障害が起きると「やっぱり自分はダメだ。うまくいかない。。。」という心理になり、もう少しだけ頑張れば乗り越えられるのに、努力することを諦めて成果が上がらないという悪循環に陥りやすくなります。

彼は完全に悪循環に嵌り、自信を完全に失くして努力が続けられない状態になっていたのです。

 

この話を聞いて支店長は、彼のこれまでの状況について合点がいったそうで、翌日には対策を打たれました。

具体的には、まず直属の上司と相談して、対応の難易度が低くて売上が上がりやすい顧客を担当させました。すると当然ですが個人成績が上がり出します。営業マンは何と言っても数字が上がることでモチベーションが高まります。彼も表情や仕事ぶりが変わっていったそうです。

前向きな姿勢を引き出した後は、本人の力量からみて少し背伸びをすればクリアできる課題を与え、直属上司も支援しながら、課題をやり切らせました。

そして、また難易度が少し高めの課題を与えてやり切らせていく・・・。

いわゆる、

スモールステップ方式

といわれる、小さな課題を連続的にクリアさせ、達成感と成功体験を与えながら、レベルの高いことができる状況にしていく指導法を採られました。

その後、テレビドラマのようにはいきませんが、平均的な業績を継続して上げられる営業マンになっていったそうです。

 

部下のパフォーマンスが上がらない要素は、当然、スキル・マインド・モチベーションなど様々な要素が考えられますが、一つの本質的な要素として「有能感」が枯渇していることがあります。

もし思い当たる方が部下におられたら、叱咤激励ではなく、成功体験を意図的に与えていくことをお考えになられてはいかがでしょうか。

 

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Author 執筆者

志水浩

志水浩

株式会社新経営サービス 専務執行役員 統括マネージャー

組織開発・教育研修コンサルタントして30年以上のキャリアを有し、上場企業から中小企業まで幅広い企業の支援を実施中。また、研修・コンサルティングのリピート率は85%以上を誇り、顧客企業・受講生からの信頼は厚い。 弊社、人材・組織開発部門、総責任者。