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連載コラム~変革リーダーシップの発揮~【第8回】言える化が組織を浄化する

2021.9.10  変革リーダーシップ

人間の行動の動機は一言でいえば、欲望と保身に集約されると思います。
「権力をつかんで人を思うように動かしたい」「異性にもてたい」「困っている人がいれば助けてあげたい」など、さまざまな欲望で人は動いています。

そして、「上司の意向に逆らうと干されてしまう」「スタッフの機嫌を損ねて辞められると困る」「親の言うことを聞かないと叱られる」など、身を守ること、立場を維持することも行動の源泉になっています。

この欲望や保身がいきすぎると「不信」が組織を蝕んでいき、素晴らしい戦略や方針を描き、仕組みを用意しても、推進されずに業績は低迷していきます。
いくつか危険な現象を挙げてみましょう。

ある会社で、五年ほど前に異業種から転じ、営業部門を統括されている営業部長がいました。
固定観念化していた政策を改め、新規チャネル開発、価格政策の見直しなど、営業革新を果たされ成果を上げてきた方です。
しかし突然、退職します。順調に改革が進んでいたなかでのことだったので驚きました。

個人的に親しくもしていたので、食事をしながら退職理由を尋ねると、何と社長が自分のことを嫌っているからだと言うのです。

確かに正義感が強く、社長にも直言する方なので、会議の場面で社長の判断を批判して傍から見れば“ヒヤっと”する場面も何度かありました。
そうしたご自身の振る舞いから、社長が嫌悪感を有しているという思いが生じたのは
わからなくもありません。

詳しく聞いていくと、具体的に批難されている点をいくつか挙げられました。
ただ、話を聞いていくうちに私は「社長が本当にそんなことを思っているのか?」と疑問が募っていきました。

それから一週間後、社長とお会いした際に営業部長から聞いた話を伝えました。
すると社長は鳩が豆鉄砲をくらったように驚きました。
「そんなことを言った覚えはない」「たしかに気分を害するときもあり、対立したこともあったが、彼を批難したつもりはない」。

社長が嘘をつく必要はありません。
どうして、営業部長は退職するレベルまで、社長に疎まれていると感じたのか? 二人であれこれ話しました。
そして、しばらく二人で沈黙して考えていると、社長がポツリと「そうか」と言います。私が何を思ったのかを問うと「切り取りですね」と言われました。

役員や管理職の人たちと食事や会議が終了した際に話をするなかで、営業部長の話題がのぼることがありました。
社長は90%以上営業部長を承認していますが、たまには文句や愚痴も出ます。
会議で対立したあとなどは多めに出てしまいます。

その全体のなかの、わずかなマイナス発言を切り取られて、直接的・間接的に営業部長の耳に入っていったのではないかということでした。
私もそれを聞いて納得しました。

社長が営業部長を今の立場に据えて改革を進めてきました。
それまで営業をリードしていた役員・部門長の先輩たちは、自分がしてきたことを否定されたことになります。面白くはなかったと思います。嫉妬もあったでしょう。
そして何より不安であったと思います。「立場が逆転するのではないか?」
改革に反対していた上位者は「立場が逆転すれば攻撃されるのではないか?」
このような想いがあったことでしょう。

このあと、本人に再確認し、他の方々からも話を聞くと、やはり社長発言の“切り取り”が原因だったようです。
どこまで役員や他の部門長たちが意図的に行ったのかはわかりませんが、切り取った情報を何人かが流していたようです。
営業部長の立場で考えれば、社長から批難されている情報がさまざまなルートで複数入れば、情報の信憑性が高まっていきます。
結果、退職に踏み切るところまで追い詰められたのでした。

その後、お二人は私が間に入り、これまでの経緯についての話をされ、営業部長が抱いていた社長に対する不信は消えました。
しかし、役員などの先輩に対する不信は消えず、退職という決意は変わらず辞めていきました。


近年、業績を右肩上がりで伸ばしてきた企業に、アイスキャンデーのガリガリ君で有名な赤城乳業があります。

その躍進の秘訣は、“見える化”になぞらえた、“言える化”にあると言われています。
若くとも上司・先輩に物怖じすることなく意見具申する。部門・部署間、そして同僚同士でも言うべきことは伝えていく。タテ・ヨコで言い合える組織にしていくということです。

しかし、世の中には逆の“言えない組織”のほうが多く存在します。
そして、その言えないことが水面下に潜り、インフォーマルな形で流通します。

具体的には、陰で相手の悪口や不満、愚痴を言い合う状態となります。
そして、陰で言われていたことが、人を介して当事者の耳に入り、上司や部下、他部署メンバーに対して不信感を抱いていきます。

こうした状態が所属する組織のなかで恒常化すると、社員の多くは仕事に前向きに取り組むエネルギーが削がれていき、組織に対するエンゲージメントも失っていきます。

この“言えない組織”になる要因は、上位者が部下や後輩を自分の意に沿うようにコントロールしたいという思い、上司に悪印象をもたれたくないという保身、自分の部門や部署にとって都合よく仕事がしたいという考え、こうしたさまざまな欲望・保身がマイナスに働くことにあります。

他には「みんなが言っている」という発言が多く出てくる組織も危険です。
まず、この発言はほぼ100%嘘です。
大体一人か二人が言っているだけです。小さな事実を大きな事実にすり替える行為です。事実誤認や他者に対する不信感を醸成させます。
これも動機は、本人の何らかの欲望や保身のための発言です。

こうした不信感を生み出す人間の性は、コントロールしなければ組織をおかしくしていきます。それを防ぐのはやはり評価です。

各組織におけるリーダー層が、不信を生じさせる言動を認めないことをはっきりと宣言して、問題言動をした人物は厳しく遇することが必要です。
先の営業部長の事例のような発言における”切り取り行為”は許さない。「みんなが言っている」という発言をした者は厳重注意する。

逆に、自分に対して真摯な想いで直言する部下は、内容はともかく言ったことを承認する。
こうした不信の連鎖を防ぐ言動を評価する。
リーダーには、言動の評価基準を明確に伝え、不信の芽を摘むことが求められます。

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Author 執筆者

志水浩

志水浩

株式会社新経営サービス 専務執行役員 統括マネージャー

組織開発・教育研修コンサルタントして30年以上のキャリアを有し、上場企業から中小企業まで幅広い企業の支援を実施中。また、研修・コンサルティングのリピート率は85%以上を誇り、顧客企業・受講生からの信頼は厚い。 弊社、人材・組織開発部門、総責任者。