行動心理学に「カマスの実験」というものがあります。
カマスと、その餌である小魚を同じ水槽に入れます。そして透明の間仕切りを真ん中に入れて、カマスと小魚を分けます。
カマスは小魚を食べようとしますが、当然、透明の間仕切りにぶつかって食べられません。
何度もぶつかってチャレンジするものの食べられない状態が続くと、ついには食べるのを諦めます。
そして、しばらく後にカマスと小魚を仕切っていた間仕切りを取ります。
しかし、カマスは目の前を通り過ぎる小魚を食べようとしません。
これは、学習性無力感といわれる現象を検証した実験です。
学習性無力感とは、努力しても成果が出ない。回避しようと抵抗してもできない。
このような状態が続くと無力感が生じて、努力や回避をしない状況に陥ることを指しています。
これは表現を変えれば、経験から固定観念が生まれ、状況・環境が変わっているにもかかわらず、無自覚的に非合理な行動をとってしまうことを述べています。
じつは、カマスの話には続きがあります。
目の前に小魚が泳いでいても“食べられない”と思い込んでいるカマスのいる水槽に、別のカマスを入れます。
すると新人カマスは小魚をあっという間に食べてしまいます。
長く水槽にいて、餓死寸前のベテランカマスに「エッ、食べられるの?」というような驚きの事態が生じます。
新人カマスの様子を見たベテランカマスは、半信半疑ながらも小魚に近づいていきます。そして口を開けて、思い切って食べてみる。「美味い! なんだ食べられるんだ」
その後、ベテランカマスは食欲が戻り、普通に食事を摂るようになります。
経験を積むことは基本的に好ましいことですが、負の側面として悪しき固定観念が生まれます。
一面的にしか物事が見られずに発想が固定化します。
「○○は××である」という社内常識・組織常識に無意識レベルでとらわれるようになります。
同じ場所で、同じ経験を長年積んでいくと、組織に所属する全員が同じ固定観念をもってしまいやすくなります。
この打破のための方策はさまざまあると思いますが、有効な手立てとして
異質(よそ者)
を投入することが挙げられます。
社内でいえば、他部門・他職種からの異動を求める・受け入れる。
中途採用をする場合は、同業界ではなく、あえて異業種・異分野からの人材を採用する。新卒・中途採用ともに、既存メンバーと価値観・志向が違う人物をあえて入れてみる。
暗黙のルール・判断基準・価値観を有した同質人材の集団は心地よいコンフォート・ゾーン(快適空間)です。
意識しなければ無意識的に同質で固めていきます。
そこで、組織に 良い“ゆらぎ”を生じさせるために、計画的・定期的に異質人材を入れて、固定観念を崩していくことが求められるのです。
そしてリーダー層は、この異質人材が同質化しないように心がけることも必要です。
疑問を感じることは聴き、提言を受け入れて変えるべきことは変えていく。
リーダーが率先して固定観念を改める動きを行うことで、部下たちも既存の手法・枠組みから脱却するクリティカルな発想が生まれていきます。