USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を再生させた敏腕マーケターの森岡毅氏。
USJの改革ストーリーを記した著書のタイトルにもなっていますが、ジェットコースターを後ろ向きに走らせて大ヒットさせるなど、論理思考、消費者視点をベースにしたクリティカル・シンキングは見事なものです。
USJ退社後は、マーケティングの精鋭集団「刀」を設立してさまざま企業のコンサルティングを手掛けています。
そのなかの一つにネスタリゾート神戸があります。
本施設は税金の無駄遣いとして社会的な問題にもなった、旧厚生省の被保険者・年金受給者向けの保養施設グリーンピアの一つ「グリーンピア三木」が母体です。
二〇一五年に営業を終了。民間企業の延田エンタープライズが建物・土地を買い取り、翌年からネスタリゾート神戸として再スタートをきりました。
しかしながら「神戸」と施設名に入れているものの、神戸の中心地から直通バスでも四〇分かかるほど離れています。
甲子園球場八七個分の敷地はあるものの、周りは山林に囲まれた僻地です。
再スタートしたものの苦戦がつづきます。
こうしたなか森岡氏に再生が託されます。関係者に話を聞くとネガティブな話ばかりが出てきます。
なかでも口にされるのが、消費者の関心を惹く観光スポットも施設もなく、ここには「山しかない」ということでした。
森岡氏はここで視点を変えます。「山しかない」から人が来ないという多くの人がもっていた固定観念を覆します。
「山しかない」ではなく「山がある」
ではないかと。この山に囲まれた自然が武器になるではないかと考えます。
娯楽施設に求めるのは一言でいえば「非日常」でしょう。
都市生活者が増え、デジタル機器に囲まれた時代ゆえに、逆に自然のなかでの実体験を提供することが非日常を味わい感動をもたらすと考えました。
「大自然の冒険テーマパーク」というコンセプトのもと、さまざまなアトラクションを創り出していきます。
山の大地の起伏をそのまま活かした自然のオフロードコースのなかを、ときには泥んこになりながら本格的なバギーカーで走り回る「ワイルド・バギー」。
緑に囲まれた池の中を自分でオールを漕いで、ときには水のトンネルをくぐりながら浮島をまわる冒険「ワイルド・カヌー」。
日本最長の全長五六〇メートルの距離を、最大瞬間速度七五キロで鳥のように両手を広げてパークをはばたく「スカイイーグル」。
資金をかけることなく本能を揺さぶるような体験を、こうしたアトラクションを通じて提供していきました。
結果、二〇二〇年、コロナ禍のなか四月には閉園を余儀なくされる事態に陥ったにもかかわらず、夏以降の月間来場者数が過去最高を更新しつづけて初の黒字化を達成しています。
どうしても、われわれは過去の経験則が固定観念・先入観となり、一面的な捉え方をして柔軟な発想ができずに問題解決が進まないことが起きます。
問題に対した際、見方を変えて多面的に考えることの大切さを示唆した事例です。