■評価調整会議でのこと
私は仕事柄、人事制度の構築支援を行った顧客企業に対し、継続して人事制度導入後の運用支援を行うことがよくあります。
そのご支援の一つが評価調整会議のファシリテートです。
評価調整会議では、社長や役員、事業部長などの二次評価者が全員集まり、社員一人ひとりの評価が妥当なものなのか、育成すべきポイントは明確か、来期の目標は会社や部署の方針・本人の役割・能力とマッチしているか等をチェックしていきます。
先日、ある企業(以下A社とする)の評価調整会議の中で、7月に4等級に昇格したばかりの社員(以下Xさんとする)が、95点という満点に近い評価を受けていることが分かりました。
二次評価者である執行役員は、「彼は中途の即戦力で、高い成果をあげている。また、評価の内容もよく理解しており、満点を取るように日頃から行動しているため、非の打ちどころがない」と説明しました。
なお、確認してみたところ、半期前の評価でも、3等級として97点を取っていました。
■部下に対する確証バイアス
しかし、A社において4等級者は、自分の仕事が高いレベルで遂行できているだけでなく、その経験やスキルを活かして「部下の指導」を行うことが求められます。
Xさんは、たしかにプレイヤーとしての実力があり、仕事の質やスピードは高いものの、部下指導は殆ど行っておらず、とにかく現場に出ることに時間を使っていました。
その点を社長や他の役員から指摘され、最終的にXさんの評価点は大幅に下がりました。
執行役員は、「Xさんは仕事が出来る」、「Xさんは高い評価を受けるべきだ」という確証バイアスに囚われており、4等級の基準に照らし合わせてきちんと評価が出来ていませんでした。
確証バイアスとは、一度「こうだ」と仮説を立てたら、無意識にその仮説を支持する情報ばかり集め、その仮説に反する情報を排除しようとしてしまうことです。
たとえば「あの人はうっかりミスばかりする」と一度決めつけたら、その人のミスばかりが余計に目につくようになり、本人が努力をしてミスを無くしたとしても、その丁寧な仕事ぶりは目に入りにくくなるような現象です。
Xさんのケースでは、上司が「Xさんは仕事が出来る」と思い込むあまり、Xさんのプレイヤーとして良い点ばかりを見るようになり、本来やるべき「部下指導」が出来ていないという事実を見落としていました。
■メンバーに対する確証バイアスを取り除くには?
チームにおいて一度「確証バイアス」が形成されると、その評価はなかなか変わることがありません。
会議で的外れな意見を多く述べていたメンバーが、時には鋭い意見を述べたとしても、「彼の意見は参考にならない」とスルーしてしまうことが往々にしてあります。
しかし、人は仕事の経験を積みながら少しずつ成長していくものです。特に若手は何かのきっかけで見違えるように成長することもあります。
確証バイアスは、先の事例のような上司が部下を評価する場合に限らず、部下から上司、メンバー同士等、様々な階層で起こりえます。
もちろん人が他者に対して「○○さんは、△△だ」と評価する時、その全てに確証バイアスがかかっているとは限りません。事実を基に正しく評価をしていることもあります。
しかしチームのリーダーは、メンバーが他者を評価する発言に注意を払い、それが確証バイアスがかかっていないか、間違ったレッテルを貼ることで関係性の悪化に繋がっていないかを観察しておくことが望ましいでしょう。