アメリカの心理学者アルバート・エリスが提唱した論理療法(心理療法の一種)の中心概念にABC理論というものがあります。
「出来事が、直接的に人の感情や行動を決めるのではない。意味付けが感情や行動を左右する」という考え方です。
要約すると下記となります。
A:出来事(Activating event)
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B:解釈・受け止め方(Belief)
⇓
C:生じる感情・思考・行動(Consequence)
補足すれば、同じ場所で同じ経験をしても、人はそれぞれ受け止め方が違うので、ある人はやる気になり、ある人は落ち込むといった、違う感情・思考・行動が生じることを述べているものです。
事例で説明すると、下記のようなことになります。
【入社半年の若手社員Xさんの事例】
・時間をかけて作成した顧客提出用の企画書を、上司に提出したがダメ出しをされた⇒A:出来事
・これだけ時間をかけたのに、やはり自分には能力がない…⇒B:解釈・受け止め方
・自分は、この仕事は向いていない。転職した方が良い⇒C:生じる感情・思考・行動
【入社半年の若手社員Yさんの事例】
・時間をかけて作成した顧客提出用の企画書を、上司に提出したがダメ出しをされた⇒A:出来事
・より良くするためのポイントが見えてきた!⇒B:解釈・受け止め方
・指摘を踏まえ、お客様に採用いただける企画書にしよう!⇒C:生じる感情・思考・行動
前者のXさんのように、望ましくないC:感情・思考・行動を生み出す悪い解釈をイラーショナル・ビリーフと言います。
それに対して、後者のYさんのような、プラスのC:感情・思考・行動を生み出す良い解釈をラーショナル・ビリーフと呼びます。
普通に考えれば、入社半年程度のXさんが上司からダメ出しを受けるのは、経験量からいっておかしなことではありません。
何度かダメ出しを受けているとしても、「能力がない。仕事が向いていない。」と解釈するのは極端であり、客観的に考えて非合理であると言えます。
こうした非合理な解釈(イラーショナル・ビリーフ)を、論理的に良い方向に書き換え、Yさんのような心理・結果を生み出す働きかけをすることがABC理論の目的となります。
会社組織においては、社員間・部門間の軋轢や対立がどうしても起きます。
この発端は、当然、様々なことから生じている訳ですが、対立する相手の言動の解釈・受け止め方がおかしいがゆえに、問題を大きくしていっている側面があります。
シンプルに言えば、
・会議で自分が発言している時、同僚が目線を合わさず腕を組んでまともに話を聞こうとしていない⇒A:出来事
・私のことを同僚は軽視している⇒B:解釈・受け止め方
・あの同僚と協力して仕事を進めるのは難しい⇒C:生じる感情・思考・行動
といったケースです。
ただ、目線を合わさず腕を組んでいるから、本当に自分のことを軽視しているのか?と言えば、違う可能性も多く考えられます。
その発言に対してじっくりと吟味していたのかもしれません。また、仕事でトラブルを抱えていて話を聞くどころではなかったかもしれません。
前述の非合理な解釈(イラーショナル・ビリーフ)が増していくと
「妄想9割、事実1割」
状態に陥ると言いますが、人は、何かのきっかけで相手に悪印象を持つと、出来事の解釈が悪い方にばかり向いて、事実ではないことばかりを考えていきやすくなります。
社員間の軋轢も部門間の対立も、それぞれが悪い解釈を重ねることで誤解が誤解を生み、協働が十分になされないということが大きな要因と感じています。
そういう意味で、相互に不信感があり、協働が不充分な関係の改善においては、「妄想ばかりをしていたんだな。。。」と互いに気付かせることがポイントとなります。
専門的な言葉になりますが、カタライザー(世話人)と言われる客観的な立場で対話をコーディネートする人物が間に入り、まずは互いに現在の悩み・苦労・努力を語り合う。
そして互いに感じていた、当事者間における出来事の解釈を伝えていきます。
その中で、少しずつ誤解が解けていき、自分達の妄想が問題を大きくしていたことに気付いていき、関係性が改善の方向に向くことが多くあります。
昨今、生産性向上がよく語られ、それに伴い多くの業界でITツールの導入が盛んです。
ただ、様々な企業をみていて、このような妄想を解消して社員間・部門間の関係性をまず改善していくことが、生産性を上げる本質ではないかと感じています。