■顧客満足度日本一の不動産会社
先日、ある大手不動産チェーンのフランチャイズとして数店舗を経営している、地方企業A社に訪問し、社長のお話を伺いました。
その不動産チェーンでは年に一度、お客様からのアンケートを集計し、顧客満足度ランキングを出して、表彰を行っています。
全国約3,000人の営業スタッフが表彰対象となるのですが、毎年TOP10にA社の社員が名を連ねており、1位から6位までを独占したこともあったそうです。また、来店されたお客様の契約率は、業界平均で50%~60%と言われていますが、A社では契約率90%以上の営業スタッフが数多くいるということです。つまり、A社の店舗に足を踏みると、殆どの方がA社と契約し、部屋を借りてしまうことになります。
そんなA社ですが、創業当初から順調なわけではありませんでした。始めは2店舗でスタートをしたのですが、実験的に、マーケットが小さい街の店舗には不動産未経験の社員を、マーケットが大きい中心街の店舗には経験のある社員を配置しました。しばらくして2店舗の業績を比較したところ、予想に反して両店舗の成績は殆ど変わらなかったそうです。
「なぜこのような結果になるのか?」と社長が現場を観察したところ、次のようなことが分かりました。
未経験者を配置した店舗では、スタッフ同士が分からないなりに協力し、知恵やアイデアを出し合い、笑顔で接客をしていました。しかし、経験者を配置した店舗では、業界の慣習に捉われて、競争意識が働き、スタッフ同士がギスギスし、イライラしながら仕事を行っており、徐々に社員同士が険悪になっていっていました。
■どんな会社にしたいのか、全員で考える
社長は直ちに「これではいけない」と考え、「どのような会社にしたいのか」、「そのためにはどうすれば良いのか」について何度も全社員と対話を重ね、会社の方針やルール等を決めました。
その中でも特に興味深いのが、お客様の満足度を最大化するために、「営業職のノルマ無し、歩合給無し」、「接客はお客様のためにチームで行う」というものです。
これは、同業他社では考えられないことです。他社では、各自が自分の成績を伸ばすために、良い物件情報があってもそれを他のメンバーに共有せず、抱え込んでしまうことが多くあります。また、お客様の共有はせず、接客は基本的に1対1で行います。
しかし、A社ではお客様と担当営業の会話を他のメンバーも聞いており、お客様のご要望に合う物件を即座に複数人で探すことで、お客様をお待たせすることなく、最適な物件のご紹介をすることが可能です。
また、お客様から連絡があった際に担当営業が外出中であっても、情報共有が出来ているため、すぐに別のメンバーが対応することができます。
このような接客を続けた結果、お客様に「このお店のスタッフは、皆で私のために物件を探してくれる」、「同じ物件であっても、他店ではなくこのお店で契約したい」と思ってもらえるようになり、結果的にメンバーが全国表彰の常連になるようになりました。
■仕組みがチームづくりを阻害していないか
個人の目標設定やインセンティブ制度(※)等によって、社員のやる気を引き出そうとしている企業は多くあります。しかし、業種業態によっては、それがチームワークを阻害し、意図したものとは反対の結果を生み出してしまうこともあります。
業界の常識等に捉われず、自社の評価や賃金の制度について、それがチームワークの向上につながるかどうか、という観点で見直してみてはいかがでしょうか。