コミュニケーションには二種類あります。一つは他者とのコミュニケーション。
もう一つは、普段ほぼ無意識で行っている自分とのコミュニケーションです。
具体的にいえば
内部対話
です。
内部対話は、日々、無自覚的に相当の数を行っています。たとえば、朝起きて着替えをする直前このような対話が行われています。
「今日の予定は?」 → 「午後から、大口得意先の部長と面談。夜は業界団体の会合」
「スーツは、どれがふさわしい?」→「紺色で赤いペンシル・ストライプの入ったスーツがいい」
「シャツは?」→「白」
「ネクタイは?」→「赤のドット柄!」
私たちはこうした内部対話を瞬間的に行い、着替えを始めます。
この内部対話の質を高めること、具体的には自分への質問の質を高めることが、心的エネルギーを向上させ、パフォーマンスを上げることにつながります。
逆に、よくない質問を行えば、ストレスを生じさせたり、パフォーマンスを落とす結果を導きます。
たとえば、仕事が思うように進まないとき、
「なぜ、こんな目に合わなければならないのだろう?」
「一体、誰が悪いのか?」
というような質問を自分に対して行うと、脳は質問に沿って考え、動いていきます。
他者や置かれた環境など、自分では変えにくいことに意識の焦点が向かい、ストレスを生じさせたり無力感を与えたりします。
同じ状況に陥ったときに、
「どの部分が機能して、どの部分を改善すればよいのだろうか?」
「根本的にやり方を変えるとしたら、どんなことが挙げられるだろうか?」
こうした質問をすれば、プラスの方向で思考は進み、建設的なアウトプットを導き出せる可能性が高まります。
かのアインシュタインに次のような逸話があります。
記者会見の席上、意地悪な記者からこんな質問をされます。「あと1時間で殺されてしまうという状況に陥ったら、どうされますか?」。
アインシュタインは即座にこう答えたそうです。「私は、55分かけて“自分への最高の質問”を考えます。そして、残りの5分間で答えを考え、実行に移します。」
よい質問をすればよい思考結果が生まれる。自分への質問の質を高めることが重要であることを伝える逸話です。
経験を積むことは基本的に良いことです。
しかしながら、何事もプラスの要素の中にリスクが内在する。『光と影の法則』が働きます。
光が強ければ強いほど、影も濃くなります。同じように経験を積んだ人ほど、固定観念が多く生じて、柔軟な発想ができずに問題解決が進まない事態が起きます。
コロナ禍とともに、今、大きな変革期を迎えています。
こうした時代では、良い意味で常識を疑い、過去の経験則・固定観念に縛られずに考える、
クリティカル・シンキング
が求められます。
具体的には、目的を問い、前提や固定観念を疑う内部対話を行うことです。
「目的から考えて、他にもっと良いやり方はないだろうか?」
「手段が目的化していないだろうか?本質的なこのテーマの目的を考えると、何を行うべきなのだろうか?」
「この問題に関して、固定観念を持ってしまっていることはないだろうか?」
「部下に対してレッテル(固定観念)を貼り付けて、正しく観られていないことはないだろうか?」
「結論を導き出した、その前提であるAとBは本当にそうなのか?」
「この人は、どんな前提をもとに意見を主張しているのだろうか?」
こうした質問を自分に問う習慣をもつことが、環境変化の激しい時代に適切な行動を生んでいくことにつながっていく、一つの要素ではないかと考えます。