人は仕事によって磨かれ、成長していきます。
なかでも、新事業・商品開発、新規市場開拓、新規の生産管理システムの導入など、新しい分野に主体的に取り組ませるのが、成長を促す最もよいやり方です。
既に仕組みが出来上がった既存分野の経験だけでは、“芯の強い”人材はなかなか育ちません。
経験された方はおわかりだと思いますが、新規分野に挑むのは、濃霧のなかを進むようなものです。
ゴールは見えません。
あとどれくらい歩けばよいのか、時間もまったく読めません。
道は合っているのか?外れていないか?不安でたまりません。
ときには、進んでいた道が寸断されていて前に進めず、しかたなく後戻りすることも出てきます。
試行錯誤をしながら、ストレスとプレッシャーのなか、進まなければなりません。
リーダーの立場であれば、自分も泣きたいぐらい大変な状況でも、同僚・部下メンバーのモチベーション・メンタルケアをしなければなりません。
話を聴き、大変さに共感する姿勢を示さなければなりません。
時間がないなか、若手の指導を手取り足取り行わなければならない場面も生じます。
そして、ここからがよりしんどいところです。
今、収益をあげている事業や商品など既存分野を担当している人間から、直接的・間接的な批判・批難が起きます。
収益をあげて、忙しく働いている既存分野のメンバーから見れば、時間が経てども一向に成果があがらない新規分野は遊んでいるように見えます。
それがさらに続けば、自分たちが稼いだ収益を無駄にしているという心理も芽生えたりします。
その結果、合同会議で“金食い事業部”などのレッテルを貼られて、陰口を叩かれるということが起きます。
そして、いわゆるハシゴを外されることも出てきます。
経営会議で実行が決定して自身が任命されたにもかかわらず、成果が現れないと段々と冷たくなります。
ちらほら風の便り的に、ある役員が「撤退を言い出した」「やり方がおかしいと言っている」という批判的な話も流れてきます。
新しいことを立ち上げるときには、純粋に市場や技術などに向き合っているだけでなく、上下横のケア・理解を得ていく作業も行わなければなりません。
こうした経験が、成功失敗にかかわらず、視座・視野・視点を高めます。
マネジメントにおいて、主体者として苦労した者にしかわからない暗黙知(言語化しにくいノウハウ)も得られ、メンタルも鍛えられます。
トマトやキャベツなどの野菜が、水や養分をほとんど与えられない環境、あるいは極寒の環境で美味しく育つのと同じです。
言うまでもない事ではありますが、これからの時代は、コロナ禍による社会構造の変化、デジタル変革の加速度的進展、本格的な人口減少社会の到来により、経営環境が大きく変わり、不確実性が増していきます。
こうした変革期に、会社をリードしていく人材を育てるためには、目先の業績ばかりに意識を向けるのではなく、見込ある人材に、あえて新規分野の担当をさせて“計画的に暗闇を歩ませる”ことが求められるのではないかと思います。