■ラフティングチームの監督の苦悩
ラフティングというスポーツがあります。一言で言うと激流下りです。ラフトと呼ばれるゴムのボートに4人又は6人で乗り、ゴール地点に到達するまでのタイムを競います。
日本での歴史は浅く、1999年に初めて代表チームを結成。2000年から世界大会に参加しましたが、結果は16チーム中15位とさんざんなものでした。
当時、日本チームがヨーロッパの強豪国に肩を並べるには50年かかるとも言われましたが、その後2010年にオランダ大会で初優勝、翌年のコスタリカ大会でも優勝し2連覇となりました。
チーム発足当時の代表監督(兼選手)はまだ25歳。指導経験も何もなく、ただ「ラフティング日本代表チームを世界のトップにしたい」との想いで、スポンサー探し、選手探しを行っていました。
ラフティングはボートが転覆し、岩などにぶつかることもあるタフなスポーツであるため、精神的にも肉体的にもタフな人間が必要でした。そこで、各スポーツの分野でトップクラスの人達を口説いて回り、何とかメンバーを揃えることが出来たものの、チームは1年で完全に崩壊してしまいました。
メンバーはそれぞれカヌーで1番、ボートで1番等の実績がある選手で、練習方法等にも一家言があります。それに対し、監督はラフティングの経験は長いとはいえ、まだ何も実績がない25歳ですから、当然監督の指示通りには動いてくれません。お互いの意見のぶつかり合いが激しく、まとまることが出来ず、中にはチームを去っていく者も現れました。
当時を振り返って監督はこう言います。
「表面的なところだけでつながっていて、お互いのことを理解できていなかった。お互いのスポーツやトレーニングの経験が違うからこそ、確認作業が大事なのに、面倒だからと端折ってしまっていた。加えて毎日練習が続くと、『まあいいか、どうせ言っても分かってもらえないし』と弱い自分が出てくる。それが積み重なることで、小さな不満や不信感がとんでもなく蓄積してきて、一気に爆発し崩壊してしまいました。」
■心へ働きかけるミーティング
その後、監督は自身のチームマネジメントを見直し、「心へ働きかけるミーティング」を行うようになりました。
1日の終わりに監督から「今日何か心に引っかかっていることや、気になっていることがあれば、全員で話そう」と投げかけます。すると、「あの練習の時に、あの人に言われたことがちょっと気になりました」、「監督が指示したあれは、どういう意味なんですか?」等、それぞれが思っていても口に出せなかったことが出てくるようになります。
それを出すだけで、誤解が解けたり、人間関係についても気持ちがすっきりしたりする効果がありました。
これを続けることで、メンバーは心に引っかかることがなく、集中力が高い状態で翌日の練習に取り組むことができるようになったのです。
その後のチームの活躍は冒頭に記載したとおりです。
職場においても、同様のことが言えるのではないでしょうか。特にコロナ禍の影響でリモートワークが続くと、「ちょっと言いたいけど、わざわざ電話やweb会議で言うほどでもない」というようなことが少しずつ積み重なっていきます。
チームのマネージャーにおいては、「メンバーが何も言ってこないから、大丈夫だろう」ではなく、「言いたいことがあっても言えていないかもしれない」と考え、会議とは別に、定期的にメンバー同士が思っていることを話す時間を設けることをお勧めします。