前回のコラムで、老舗旅館「元湯陣屋」の経営を立て直した宮崎夫妻をご紹介しました。
稼働の少ない月曜日午後から水曜日を全館休業にすることで、スタッフの完全週休2.5日制を導入してES(社員満足)とCS(顧客満足)とを両立。
旅館でありながら、業務のデジタル化を進めていく中で開発した自社システムを外販して、全社売上の20%以上を稼ぐ事業にまで育成。
サービス業とは無縁であった夫妻が、良い意味で素人目線をもって、業界常識、固定観念に縛られることなく、一言でいえば
クリティカルシンキング
と称される思考様式をもって改革を進めていく様子をご紹介しました。
~変革リーダーシップの発揮~ 【第2回】疑う心|人材・組織開発サービス【株式会社新経営サービス】 (skg-od.jp)
このクリティカルシンキングは、VUCAワールドと称される、不確実性が高く変化のスピードが速いこれからの経営環境下では、すべてのリーダー層に求められるスキルといえます。
今回は、その強化ポイントを幾つかご紹介します。
まず、クリティカルシンキングの定義を改めて確認いただきます。
日本語訳では一般的に「批判的思考」と称されることが多く、人の主張を否定する・あら捜しをするような意味合いで解釈され、ネガティブな印象を持たれているケースがあります。
しかし、本来的な意味合いは、
~固定観念・先入観に囚われることなく、正しく物事を観て適切な判断を行う~
ことであり、凝縮して表題の「良質な思考」といわれることもあります。
- 世の中に新しい知見・技術・設備が出てきているにも関わらず、現場の誰もが疑問を持たず、昔ながらの方法で作業を行い続ける。
- 環境変化が起きているにも関わらず、過去の成功体験に縛られて、戦略・戦術を変えられずジリ貧に陥っていく。
- 部下が心理的・技能的にも成長しているにも関わらず、過去の固定観念で仕事を任せきれない。
こうした固定観念・先入観を基にした思考停止状況を生まない、打破するための思考様式です。
クリティカルシンキングを強化するためには、さまざまな要素がありますが、今回は3点ほど確認をいただきます。
まず、以下の話をご覧ください。
あるとき、一人の男性がバーを訪れます。
席に着くやいなや「水をくれ」と頼みます。するとバーテンダーは、何を思ったのか机の下からピストルを取り出し、男性に突き出します。
そして、その男性も何を思ったのか?「ありがとう」とお礼を言って店を出ていきます。
「???」ですね。なぜ、男性はお礼を言って立ち去ったのか。
答えはこうです。男性はひどい“しゃっくり”で水を頼みました。
そこで、その状況を悟ったバーテンダーが、自分ができることで“しゃっくり”を止めるという目的に最も効果があるであろうことを行った。
そして、狙い通り男性の“しゃっくり”が見事に止まり、礼を述べて立ち去った。
そういうお話です。
おわかりのとおり、クリティカルシンキングのポイントの一つは「目的志向」です。
さまざまな事柄において今行っていることが、その目的から考え、妥当なのかどうかを考えることにあります。
二つ目は、「問いをたてる」ことです。
具体的には、さきほど述べた目的や前提を問う習慣をもつことです。
「そもそも、この課題解決の本質的な目的は何なのか?」
「何のために、この企画を進めるのか?」
「今考えた意見は、どんな前提から導き出したものなのか?」
「その前提であるAとBは本当にそうなのか?」
「限られた前提(固定観念)で答えを導き出していないだろうか?」
「この人は、どんな前提をもとに意見を主張しているのだろうか?」
こうした質問を自分と他者に問う習慣をもつことです。
そして最後が、「スケジューリング」することです。
シンプルに、自身や組織を取り巻く状況について、クリティカルに物事を考える時間を毎月〇日に30分間など、定期的・継続的に持つことです。
経験を積むことは基本的に良いことです。
しかしながら、同時に固定観念や先入観を生んでいくことにつながります。
変革をリードしていくために、経験が固定観念という重い足枷にならないよう「良質な思考」を続けられるようにしたいものです。