■新商品を売ってくれない営業社員
私が担当している企業で以下のような問題がありました。
その企業(以下A社とする)は、食品商社として15年以上成長を続けてきましたが、
近年業績が伸び悩んでいました。また、その結果なかなか社員の賃金を上げることができず、中堅社員がポロポロと抜けていっている状態でした。
そこでA社の社長は、「他社が作った商品を卸すだけの利幅の薄い商売では限界がある」との想いから、食品工場を買い取り、自社のオリジナル商品を開発しました。
苦労の末、安定的に商品を製造する体制が整ったため、「後は自社の営業社員達がどんどん売るだけだ」と考えていましたが、蓋を開けてみると、営業社員達はこれまで取り扱ってきた商品ばかりを販売し、自社のオリジナル商品の営業に消極的でした。
これはまずいと考えた社長は、オリジナル商品の販売金額に応じてインセンティブを支払うルールを作って鼓舞しようとしましたが、残念ながら営業社員達の行動に変化はありませんでした。
■人は‟Why“によって突き動かされる
‟Whyから始める、ゴールデン・サークル“という理論があります。
この理論は、プレゼンテーションやプロモーション等、他者を動かす際に効果的な方法で、作家であり講演家でもある、サイモン・シネック氏により提唱されました。
ゴールデン・サークルを紹介した2009年のサイモン・シネック氏の講義「How Great Leaders Inspire Action」は4,000万回以上も再生され、TED史上最も多くダウンロードされた講演の一つとして世界中で有名になりました。
ゴールデン・サークルとは、上記の図のように、Why(なぜそれをするのか)が中心にあり、その外側にHow(どうやってそれをするのか)があり、さらにその外側にWhat(何をするのか)があるという構造であり、人を動かす偉大な企業や人物というのは、この順番で物事を伝えているというものです。
例えば、ゴールデン・サークルをApple社に当てはめると以下のようになる、とサイモン・シネック氏は説明しています。
▼Why:なぜそれをするのか
Whyは「何のためにやるのか」、「何を信じているのか」、「その組織の存在する理由はなにか」ということです。
Appleの場合は「我々のすることが世界を変えるという信念」や、「違う考え方にこそ価値があるという信念」に基づいて、企業活動が行われています。
▼How:どうやってそれをするのか
HowはWhyを実現するために、「どのようにするのか」ということです。
Appleの場合だと、「すべての製品を美しくシンプルにデザインし、誰でも使いやすいユーザーフレンドリーにする」という考えをベースに製品の開発や販売が行われています。
▼What:何をするのか
Whatは企業の場合だと「何を作っているのか」、「何を売っているのか」ということです。Appleの場合なら「iPad」や「MacBook」などの製品に当たる部分のことです。
多くの人や企業は、ゴールデン・サークルの外側であるWhatばかりを伝えていて、WhyやHowを伝えていません。TVやインターネット等の広告を見ても、「こんな製品が出来ました!(買って下さい)」というものばかりです。
しかし、脳科学的に「人は‟Why“を聞いた際に突き動かされる」、ということが実験によって実証されています。
■チームメンバーにWhyを語っているか?
このゴールデン・サークルは、経営者や上司が社員やチームメンバーを動かし、成果を生み出す際にも有効です。
一般的に経営者や上司は日常業務において、メンバーに「あれをやって」、「これをやって」とタスク=Whatを指示します。
また、メンバーの習熟度が低いと判断した場合等は、「この資料を参考にして・・・」、「○○部門に相談しつつ・・・」のように、やり方=Howを付け加えることもあります。
しかし、WhatとHowのみを伝えられたメンバーは、上司の指示通りに動こうとはするものの、言った以上の行動はせず、期待以上のアウトプットが出てこないということが往々にしてあります。
また、上司が‟Why“を伝えていないことが原因で、部下がさらに別のメンバーに指示や依頼をした際に、上司の意図からさらにズレたアウトプットが出てくることになります。
このような状況を回避し、メンバーが目的を理解し主体的に行動するためには、上司が「なぜ、何のために、我々のチームは存在するのか?」、「なぜ、このプロジェクトや業務に取り組むのか?」を一度だけではなく、何度も口に出し、メンバーに伝えることが重要です。
また、メンバーの主体性を引き出すために、単に上司が‟Why“を伝えるだけではなく、メンバーと一緒にチームの存在価値や、業務に取り組む意義を考える場を作ってみるのも有効です。
上記のA社の社長も、ゴールデン・サークル理論を基に、「何故オリジナル商品の販売が重要なのか」、「今後A社にどのような影響をもたらすのか」等を、営業社員達と対話したことで、オリジナル商品の販売数がどんどん増え、生産が追い付かないほどになりました。
もし、自身が思うように部下が動いてくれないと思った時は、是非‟Why“について話し合ってみてください。