■人的資本経営に注目が集まっている
経済産業省が2020年9月に「人材版伊藤レポート」を、さらに2022年5月に「人材版伊藤レポート2.0」を公表して以降、「人的資本経営」が注目を集めています。
レポートによると、人的資本経営とは人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
これまでは人材に投じる資金は費用(コスト)と捉えられがちでしたが、今後は人材の成長及びそれに伴う価値創造に向けた「投資」と考えるという点で、従来の人材マネジメントの考え方と大きく異なっています。
■エンゲージメントの重要性
同レポートでは、「グローバル競争の激化、デジタル化の進展を背景に、中長期的な企業価値向上のためには、非連続的なイノベーションが重要となるが、そのためには多様な個人が意欲を持って活躍できるかが大きな課題になっている」と述べられています。
しかしながら、日本企業の組織と個人の関係性を見ると、日本は従業員のエンゲージメントが世界各国と比較しても著しく低く、Gallup社の2017年の調査によると、日本の「熱意溢れる社員」の割合はわずか6%でした。
これは調査対象139ヵ国中132位という惨憺たる結果であり、個人が意欲を持って活躍しているとは言い難い状況です。
なおエンゲージメントとは、「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていること」です。
従業員満足度(ES)とは異なり、「会社が目指す方向性や姿」を物差しとして、それらについての自身の理解度や共感度、行動意欲を評価するものです。
よって企業が、国内やグローバルな市場で勝ち残っていくためには、自社に合った優秀な人材を確保するだけではなく、その人材が意欲を持って活躍できるように、エンゲージメントを高めていくことが必須となります。
■エンゲージメントが高い企業の取り組み
では、どのようにして従業員のエンゲージメントを高めていけば良いのでしょうか。エンゲージメントが高い企業の取り組みについてご紹介します。
A社は、社員数約1000名の機械メーカーです。隔年毎にエンゲージメント調査を実施しており、社員は質問に回答するだけではなく、会社に対する要望や改善案を記載することができるようになっています。
かなりの数の要望や改善案が書かれますが、経営陣は全ての意見に目を通したうえで、会社としての回答を作成し、社員にオープンにしています。
もちろん全ての要望に応えられるわけではないですが、応えられない要望に対しても、「それは経営として優先順位が低い。予算を使うならまずは重要な●●に使いたい」、「生産性を高めたいことは理解したが、まずは道具ではなく自身のスキルを高めることで対応して欲しい」等、1つ1つ丁寧に回答しています。
それを見ることで、社員は経営陣が何を考えているのかが分かるとともに、「会社は自分の意見にきちんと応えてくれた」と信頼感が向上することに繋がっています。
次回は、別の会社が行っているエンゲージメント向上施策について紹介をするとともに、エンゲージメントを高めるためのポイントについてお伝えします。