■ある求人広告代理店での出来事
求人広告の代理店を行っている企業(以下X社)での話です。
X社はある大手求人広告会社の販売代理店であり、日々担当する地域の企業に訪問するという営業活動を行っています。
各営業パーソンには、売上高と新規開拓件数のノルマが与えられ、3ヵ月に1回達成度を評価される仕組みとなっています。
新規開拓のノルマは毎週1件、3ヵ月で12件であり、一見それほど達成が困難なようには見えません。
しかし、別の求人広告を扱う競合企業だけではなく、同じ求人広告を扱う競合企業も含め、同地域にライバルが10社以上いるため、容易に達成できるノルマではありません。
そこで、X社は少しでも営業パーソンの成績を上げようと、様々な施策を導入しました。
■X社が使ったアメとムチ
X社が使った施策のうち、アメ=ご褒美は以下のようなものです。
- 新規を1件取るごとに、各自の成績を示す模造紙に花のシールが貼られる。
- 3ヵ月の売上目標を達成すると、デスクの上のくす玉が割れるとともに、インセンティブ2万5000円が支給される。
- 新規開拓1件毎に5,000円のインセンティブが支給される。
- 営業所の売上目標を達成すると、5万円が支給される。
- 1年間の全社の売上目標を達成すると、沖縄旅行に行ける。
一方でX社が使ったムチ=罰は以下のようなものです。
- 週に1件も新規が取れなかった営業パーソンは、金曜日の夕方に別室で叱責される。
- 新規のアポが無い場合、上司の監視のもと、アポが取れるまでテレアポを続ける。
- 新規開拓の目標を達成できなければ、評価及び給与が下がる。
- 未達成が続くと、複数の上司から「君は営業に向いてないし、辞めたら」と言われる。
このようなマネジメントを行った結果、ムチが強すぎたこともあり、ある年の新入社員は15人中12人が2年以内に退職しました。
また、ある営業所では、同時に2名が鬱と診断されて休職し、その後退職しました。
■罰が持つ機能とは
その後X社では退職が続くとともに、「あの会社はブラック企業だ」との噂が流れたために採用が難しくなったことから、危機感を覚えた経営陣がホワイト化に取り組み、現在に至るそうです。
X社のように、ご褒美と罰を使って社員を動かそうとする企業は少なくありません。
しかし、心理学では「罰が持つ機能は、行動を“増やす”ことではなく、行動を“減らす”ことである」と言われています。
例えば、何かトラブルやクレームが起きた際に、部下が上司に報告に行ったとします。そこで上司が部下を厳しく叱責するとどうなるでしょうか。
上司は厳しく叱ったので、「同じようなトラブルやクレームは起こさないだろう」と考えます。
しかし、部下は次に同じような問題が起きた際に、“報告する”という行動を減らします。
つまり、問題を隠すようになるのです。
人は恐怖や罰を避けようとします。
よって、罰を与えることで一時的に上司が望む行動を取ることはあります。
しかし「怒られないように頑張ろう!」という気持ちは、長続きはしません。
恐怖や罰で部下をコントロールしようとすると、「こんな場所に長くいるのは危険だ」と考え、X社の社員達のように会社を辞めるか、病む結果となってしまいます。
仮にそこまでは至らなかったとしても、部下は上司に怒られないため・罰を与えられないための行動を優先し、受け身の姿勢で仕事をするだけで、自ら考え主体的に行動したり、挑戦したりすることは期待できません。
■主体性や挑戦を促すためには
上記のような、恐怖や罰でコントロールするマネジメントの真逆が、これまで何度かコラムでお伝えしてきた「心理的安全性」です。
【第24回】心理的安全性はなぜ重要なのか?
https://skg-od.jp/column/2644/
「心理的安全な場」を作ることによって、メンバー同士の情報共有や対話等が増え、チームの学習が促進されます。そして改善や挑戦が起こりやすくなり、中長期的な業績向上につながることが、様々な研究によって明らかになっています。
職場の心理的安全性については、小冊子に詳しく記載しておりますので、以下よりダウンロードのうえご覧ください。
https://skg-od.jp/downloads/4458/