■ジャイアントキリングとは
11月から開催しているサッカーのワールドカップですが、残念ながら決勝トーナメントで敗れたものの、グループリーグで日本がドイツやスペインを相手に逆転勝利をおさめたこともあり、大変な盛り上がりを見せています。
ご存知のとおり、サッカーは選手が持つ技術=「個の力」も大事ですが、選手同士が連動して動くという「組織の力」も非常に重要なスポーツです。
よって、監督やコーチは「組織の力」を高めるために、チームビルディングを行う必要があります。
では、具体的にどのようなことを行うのでしょうか?
あくまでマンガですので、現実とは違う部分もあるでしょうが、チームづくりという点において大変参考になるのが、講談社のモーニングで連載されている「ジャイアントキリング」(通称ジャイキリ)というサッカーマンガです。
ジャイアントキリング(※)の主人公は選手ではなく、サッカー監督の達海猛35歳。
自身がかつてプレーしていたJリーグのETUというクラブチームの成績が低迷し、J1残留争いを続けている中、「弱小チームをなんとか強いチームにしたい!」という経営陣に請われてETUの監督に就任。独自の手法で一からチームづくりを行い、J1優勝争いができるチームにしていくというお話です。
※ジャイアントキリングという言葉は、サッカースラングで「大金星」、「大番狂わせ」等、弱小チームが強豪チームに勝つことを指します。
■達海監督流のチームづくり
では、達海監督はどのような方法で、チームづくりを行ったのでしょうか。
象徴的なシーンを1つご紹介します。
監督就任直後のシーズン前キャンプ。通常、監督やコーチが決めた練習メニューを選手がこなすものですが、達海監督が課したのはなんと「自習」でした。それも、キャプテンの村越選手は口出しをしてはいけないというルール付きで。
いきなり「自習」と言われて戸惑う選手たち。
そのうち、「まずはいつもどおりやろう」と仕切ろうとする選手が出てくるものの、自分達がやりたい練習を始める選手もいて、「チームの輪を乱すな!」、「じゃあ、いつもどおりで勝てるようになるのか?」等と口論が勃発し、チームが混乱をし始めます。
しかし、お互いの考え方や主張をぶつけ合う中で、今まで見えていなかった自分達の課題に気づいたり、考えもしなかったようなことを考え始めたりして、少しずつ選手たちの行動が変わっていきました。
■チームの成長に必要な混乱期
実は、この「あえてチームに混乱を引き起こす」というのは、強いチームへと成長させていくために必要な条件です。
アメリカの心理学者ブルース・W・タックマンは、「あらゆるチームは、【1】形成期 → 【2】混乱期 → 【3】統一期 → 【4】機能期という4段階をたどって形成されていく」という、タックマンモデルを提唱しています。
それぞれを端的に説明すると、
【1】形成期は、お互いの顔色をうかがいながら、波風が立たないように、大きな責任を負わないように、リーダーからの指示を待っている状態。
【2】混乱期は、互いの考え方や意見などを主張し合い対立が起こっている状態。
【3】統一期は、混乱を乗り越え他者と向き合うようになったり、考えや意見の相違を受け入れたりすることで、チームの秩序や規範ができている状態。
【4】機能期は、小さな成功体験を積み重ね、信頼関係や自信が高まっている状態です。
上記のように、達海監督はあえて練習を「自習」としたことで、チームを形成期という指示待ちの状態から、混乱期という意見をぶつけ合う状態に移行させたのです。
チームのリーダーやメンバーが、「なるべく波風を立てたくない」、「変化を避け、無難にいきたい」と考えると、いつまで経ってもチームが成長せず、大きな成果を生み出すことは出来ません。
敢えてメンバー同士が、意見や考えをぶつけ合うような状況を作ってみてください。