■ベンチャー企業A社で起きたこと
A社は大学時代のサークルのメンバー4人が、それぞれ社会人になった後に再び集まり、創業した企業です。
創業から2年間は思ったように売上が上がらず苦しい経営状態でしたが、他企業との業務提携も決まり、3年目にしてようやく先が見えてきました。
そこで、そろそろ仕事量も増えてきたし人を採用しようか、と思っていたタイミングで事件は起きました。
ある朝、女性社員の西尾さん(仮称)が、北田社長(仮称)のところに、明らかに先ほどまで泣いていたであろう顔で話しかけてきました。
「北田社長!南原さん(仮称)はうちの会社に合ってないと思うから、クビにした方がいいよ!」
南原さんとは、北田社長や西尾さんと同じく大学のサークル仲間で且つ創業メンバーです。
しかも、北田社長と翌年結婚することが決まっていました。
もし皆さんが北田社長の立場だった場合、創業メンバーで且つ自身の婚約者を辞めさせた方が良いと進言されたら、どのように対応するでしょうか。
「なんで急にそんなことを言いだすの?」
「そんなこと、出来るわけないじゃないか。俺に婚約者をクビにしろって言うの?」
「そもそも、法律でも簡単に社員を辞めさせることなんて出来ないし!」
「これから仕事も増えて人を採用しようっていう時に、逆に人を減らすなんて、会社の
状況を分かって言ってるの?」
「そんなことをしたら、これから俺はどんな顔して南原さんと会ったら良いんだよ」
人によって違いはあれ、このような対応をしてしまうのではないでしょうか。
■北田社長の意外な言動
しかし、北田社長がとった言動は、上記のどれとも違っていました。
第一声はなんと、
「分かった。クビにしよう!」だったのです。
そして、
「西尾さんが、創業時から誰よりもA社のことを考えて、一所懸命にやってきてくれたこ
とを俺は知っている。」
「これまでも、俺が判断を間違えそうな時に、『社長、それは私たちの理念に反しているよ』と正してくれたこともある。」
「そんな西尾さんが、こんなめちゃくちゃ言いにくいことを俺に進言してきたってことは、きっと会社のことを考えて、真剣に悩んだ結果だと思うから、俺はその意見を尊重するよ。」
「だから、なんでそう考えたのか、理由を教えてくれる?」
と続けたのでした。
西尾さんは、絶対に反対されると思い意を決して進言したにもかかわらず、社長にあっさり受け入れられたことで安心し、そう考えた理由を話すことが出来ました。
よく話を聞いてみると、西尾さんが「クビにした方が良い」と考えた理由は、南原さんが婚約者である北田社長の方ばかりを向いて仕事をしており、会社の理念や方針に則った行動が出来ていないことが理由でした。
それを聞いた北田社長はその数日後、創業メンバー4人での話し合いの場を設定し、南原さん本人にきちんとフィードバックを行いました。
そして本人も納得したうえで、退職することが決まりました。
■すぐにバランスを取ろうとしてはいけない
1対1の場だけでなく、社内の会議においても、メンバーの1人が極端な意見を言った際、周囲はどのような対応をするでしょうか。
恐らく、上記の北田社長とは違い、
「いや、それはちょっと言い過ぎじゃない?」
「そんなことは無理でしょう」
「そうは言っても予算が(業務量が、キャパが)・・・」
というような否定的な対応をしてしまいがちではないでしょうか。
シーソーで例えるなら、片方の端に重い人が乗ると、他の皆が反対側に動いてバランスを取ろうとするイメージです。
しかし、皆がバランスを取ろうとすると、良かれと思って敢えて意見を言ったメンバーは、意気消沈して次からは意見を言わなくなったり、あるいは即座に反対されたことに腹を立て、徹底抗戦の構えを見せたりします。
いずれにせよ、チームにとって建設的ではありません。
極端だと思われる意見であってもまずはそれを尊重し、全員でシーソーの同じ側に乗ってみること。バランス調整はその後に行った方が、合意形成がスムーズに出来るでしょう。