■ある女性幹部Aさんの告白
先日ある担当先の企業X社の社長から依頼があり、幹部社員4名に対して、1泊2日の研修を実施しました。
内容は、参加者各々が現時点での自身の問題点とその原因をしっかりと認識したうえで、新たな目標を設定し、その達成に向けた行動計画を立てるというものです。
(詳細はこちら : https://skg-od.jp/service/program_mindset_05_20/)
2日目の午後、入社して1年が経ったばかりの女性幹部Aさんの番が回ってきました。
Aさんは、社長の元同僚であり、以前の職場である商社では、社長と一緒になって社内改革を推進していた人物でした。
社長が退職し、X社を起業した後も数年間職場に残っていましたが、「社長と一緒に仕事に燃えていた時の楽しさ、やりがいが忘れられない」と、X社に転職してきました。
ただ、以前の職場の近くに家を建ててしまったため、X社で唯一、出社は月に数回のみで、あとはリモートワークで働くというスタイルになりました。
前職とX社は業種が異なるため、Aさんは一から勉強しなければならないことばかりでしたが、持ち前のバイタリティで何とか与えられた仕事をこなしていました。
しかし、入社から1年が経ったAさんの口から出てきたのは、「正直、このままこの会社に居て良いのかどうか迷っています。2年経過するまでに進退を決めます」という言葉でした。
さらに講師や他の幹部とのやり取りをしながら、以下のようなことが分かってきました。
Aさんは以前の商社では、自部署だけではなく他部署のメンバーとも頻繁にコミュニケーションを取り、それぞれが困っていることを聞いて、解決していくことにやりがいを感じていました。
しかし、X社では自分だけがリモートワークであるため、自宅で一人で出来そうな仕事しか与えられません。コミュニケーションも必要最低限のみで、その殆どが電話やメール。
会社に行く機会も少ないので、どの部署にどんな人がいるのかが分からないという状態。その結果孤独を感じており、やる気が低下しているということでした。
■オンラインコミュニケーションだけでは、ネットワーク構築が難しい
甲南大学経営学部の教授、尾形真実哉氏の著書「中途採用人材を活かすマネジメント」によると、中途採用者が新しい職場で活躍するための課題の1つに、「社内における人的ネットワークの構築」があります。
仕事は個人の力だけでなく、他者との協働作業を通じて遂行され、成果が生まれます。よって仕事を円滑に行うためには、様々な情報を入手したり、協力を得たりするための人的ネットワークが不可欠です。
仕事で成果を出すための「Know How」を得るために、まずは「Know Who」を得る必要があります。
新卒者と比べて会社からのサポートが手薄になりがちなため、中途採用者は人的ネットワークが乏しいか無いに等しい状態から、自分で早急に構築しなければなりません。
そのため、他の社員とコミュニケーションを取ることで、人的ネットワークを構築・拡大していくことが求められますが、尾形氏の研究では、「非対面のオンラインコミュニケーション(メールやZoom等)は、中途採用者の組織内人的ネットワークの構築に、有意な影響を及ぼさない」という結果が出ました。
つまりX社のAさんのように、入社後すぐにリモートワークとなり、他の社員と直接会ってコミュニケーションを行う機会が限られてしまうと、人間関係が構築しづらく、必要な情報やノウハウが得られず、仕事の成果が生まれにくいということです。
なお、Aさんは研修後出社の回数を増やし、出社日にはなるべく多くの社員と、雑談も含めてコミュニケーションを取ることで、孤独感がなくなり、自ら新しい仕事にチャレンジするようになりました。
全国的に緊急事態宣言が解除され、出社率を高めようとする企業がある一方で、さらにリモートワークを推進しようとする企業も出てきています。
それぞれメリットデメリットがあるため、何が正解とは言えませんが、上記の例も参考にしつつ、いかにメンバー同士の関係を強化し、成果が出るチームにするか、是非ご検討ください。