■心理的安全性が注目されるわけ
最近、経営者や人事部門の社員等、組織運営に関心が高い人達の間で「心理的安全性」というキーワードが注目されるようになっています。
きっかけは2015年にグーグル社が「パフォーマンスが高いチームに共通する一番の特徴は、心理的安全性が高いことだった」という研究結果を発表したことです。
この「心理的安全性」がなぜ重要なのか、なぜ生産性向上につながるのか、ということについては、コラム【第24回】心理的安全性はなぜ重要なのか?に記載しておりますので、合わせてご覧下さい。
■学生が採用選考に進まなかった原因は・・・
ある会社での出来事です。
4月に人事異動が行われ、元々製造部にいた小林課長が新たに人事部の課長になりました。
小林課長は新卒採用に対する関心が強く、3月から行っている新卒採用の活動内容を見たうえで、
「この会社説明会の内容では、当社の魅力が上手く伝わらないだろう。様々な部署を経験してきた私が説明するから任せておきなさい」と言い、会社説明のスライドを作り直し、自ら学生の前で話をすることになりました。
説明会当日、課長は得意げに学生の前で話をしていましたが、以前から新卒採用を行っている星谷主任から見ると、昨年度よりも学生の反応が薄いような気がしました。
しかし、説明会後に課長から「どうだ?やっぱり今までの説明よりも良かっただろ?」
と自信満々に言われたので、「そうですね。さすが課長です!」と返すしかありませんでした。
5月に入り、一次面接や二次面接が行われている頃に人事部の会議があり、人事部長から「今年の新卒採用はどうだい?」と質問がありました。
星谷主任はデータを見たうえで、「説明会の参加者数は予定通りでしたが、説明会から選考に進む学生の比率が、例年よりも低めのため、内定者数が足りなくなるかもしれません」と答えようと思いましたが、
先に小林課長が「はい、私が説明会をテコ入れしたので順調です!そうだよな、星谷主任」と発言したため、「はい。」と答えてしまいました。
そして、6月になり、いよいよ最終面接や内定出しを行いましたが、やはり選考に参加する学生が少なかったことが後々まで響き、内定者数は計画を下回ってしまいました。
星谷主任は、内定者数を確保するためには説明会の追加開催や、新卒紹介の活用等、別の対策が必要だと考えて小林課長に報告にいきました。
すると、「こうなる前に、なんでもっと早く言いに来なかったんだ!今さら言いに来るなんて遅すぎる!」と怒られてしまいました・・・
■マイナス情報がきちんとレポートされるためには
上記の事例においては、採用目標を達成することが星谷主任に与えられた目標であり、それを達成するためには、たとえ上司であっても小林課長に対してきちんと問題点を伝えるべきでした。しかし、課長への遠慮や忖度等からそれが出来ず、怒られるという結果になってしまいました。
ただ見方を変えれば、会社や上位者がこのような事態を引き起こしているともいえます。問題を指摘すれば「被害を受けるかもしれない」という認識を持っており、言うべきことが言えない。すなわち「心理的安全性がない組織」にしてしまっているということです。
米ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授の著書「恐れのない組織・・・心理的安全性が学習・イノベーション・成長をもたらす」では、心理的安全性が低い職場によくある暗黙のルールとして、以下のようなものが挙げられています。
・上司が手を貸した可能性のある仕事を批判してはいけない ・確実なデータがないなら、何も言ってはいけない ・上司とその上司がいる場で、メンバーは勝手に意見を言ってはいけない。 ・他の社員がいる所で仕事についてネガティブなことを言ってはいけない ・率直に意見を言い、上司の面目をつぶすことはキャリアに影響する |
業務上発生した問題、とりわけそれが上司に起因するものであったとしても、部下が上司に言うことができる環境をつくるためには、「何か指摘をしたからといって、人事考課で減点をされたり、上司に詰められたり、左遷されたりしない」、という心理的安全性が職場で確保されていることが重要です。
そのための第一歩として、マイナス情報を報告してきた部下に対しては怒らないこと、むしろ「言いにくい事をすぐに伝えてくれてありがとう」と承認することから始めてみてください。