人材・組織開発サービス【株式会社新経営サービス】

コラムCOLUMN

連載コラム~変革リーダーシップの発揮~【第16回】目的と手段は合っているのか?

2022.5.15  変革リーダーシップ

東京の千代田区にある公立の麴町中学校は、宿題なし、中間・期末の定期テストなし、担任の先生なしという独自の教育手法で注目を集めました。

 

従来常識と考えられた施策のこうした見直しは、元校長の工藤勇一氏の学校教育に対する次のような考え方からきています。

※工藤勇一氏は、現在「横浜創英中学・高等学校長」を務められています。

 

学校教育の目的は、突き詰めると二つに集約されます。

 

 ①子どもたちが、社会でよりよく生きていけるようにする

 ②自ら考え、動く、自律心を養わせる

 

この目的を見て、多くの人がそうあるべきだろうとお考えになると思います。

 

ただ、現実の学校では、あれこれ規定・ルールをつくり、子どもたちに考えさせない。
決めさせない、さらに言えば、失敗させない。

このような過保護な環境をつくり、自律の芽を摘んでいる状況です。

 

そこで、工藤氏はこの目的と手段を一致させる取り組みをしていきます。

 

宿題は、学校・先生の押し付けであり、自律心を損ねる取り組みである。

そもそも一律に課題を課すこともおかしい話である。

学力の高い子どもたちからすれば、宿題で出る課題はわかりきっていることで、宿題の時間は無駄な時間になっている。逆に学力の低い子どもにはハードルが高くて、どう考えれば良いかがわからないので、白紙で提出することが頻発している。

宿題は廃止して、子どもたち一人ひとりの状況に応じた学習をさせた方がよい。

 

こういった背景で宿題がなくなります。

 

中間・期末のテストにおいては、ご経験のある方がいると思いますが、テストに出そうな所にアタリを付けて、いわゆる一夜漬けなどの短時間集中で暗記・学習することが多く行われていました。

 

こうした学習法で学んだことは定着化が図られません。また、子どもたちの学習能力を正しく測定するものであるか?と考えると疑問符が付きます。

 

そこで、工藤氏はやり方を変えます。

単元テストといわれる、教科毎の節目で出題範囲を狭めたテストを頻繁に行う形式に変えます。

そして、この単元テストは、1回目のテスト結果に子どもたちが納得できなければ、2回目の再受験ができることにしました。しかも、2回目の結果が成績になります。

 

すると、多くの子どもたちは当然2回目を受験するのですが、ここで宿題がないことがきいてきます。

たとえば、1回目の数学の点数が60点であれば、間違ったり、わからなかった40点分の箇所を学習しなければなりません。

宿題がないことで、自分の課題を自宅でゆとりをもって学習ができます。

 

この過程で自律的な思考・活動もなされていきます。

時間に余裕があっても、テストでわからなかったことが自力で解けないことも多く出てきます。

そうなると子どもたちが次に考えるのが、人に聞くことです。

自分の課題を克服するために、学力の高い友人に聞いていきます。

 

ただ、全ての教科において、答えをわかりやすく教えてくれるグーグルのような友人を全員が持っているわけではありません。

そこで、子どもたちは、今まであまり話したことのないようなクラスメートにも、声を掛けて教わる動きをしていきます。

うまく関係性が築ければ、一度だけでなく何度も親身に教えてくれる状況になります。

 

こうした活動がクラスの主流となり、自律的に自分の課題解決を考え、動いていく子どもが増えていきます。

結果、相手の個性や状況に応じた働きかけを行い、人間関係を構築する、人生における重要なスキルを培っていきます。

そして、この取り組みが精神的な成熟度を高めていき、3年生の段階では“いじめ”がなくなる状況になるそうです。

 

このような工藤氏の取り組みは、当然われわれビジネスの世界においても有効なものです。

 

 「そもそも、この課題解決の本質的な目的は何なのか?」

 「何のために、この企画を進めるのか?」

 「目的から考えて、この選択・方法が最も効果的なものなのだろうか?」

 

時に立ち止まって考えていくことが、生産性を高める一つの重要なポイントであると思います。

 

関連サービス

Author 執筆者

志水浩

志水浩

株式会社新経営サービス 専務執行役員 統括マネージャー

組織開発・教育研修コンサルタントして30年以上のキャリアを有し、上場企業から中小企業まで幅広い企業の支援を実施中。また、研修・コンサルティングのリピート率は85%以上を誇り、顧客企業・受講生からの信頼は厚い。 弊社、人材・組織開発部門、総責任者。